会議室でポッドキャストを収録するときに、当日いちばん防ぎたいのは「響き」「音割れ」「声に重なる物音」の3つです。この3つは、収録のあとの編集で直すのが難しいためです。言い淀みや長い間は、編集で整えられます。
会議室は話し合いのための部屋で、録音のためにつくられた部屋ではありません。準備をしないまま録ると、声が響く、空調の音が入る、人によって声の大きさが違う、といった失敗が起きやすくなります。ただし、こうした失敗の多くは、スタジオのような設備がなくても、部屋の選び方とマイクの置き方で減らせます。以下では、起きやすい6つの症状を、早見表と症状ごとの対処で整理します。
会議室の音が聴きにくくなるのは、声に対して「部屋の音」が大きいから
マイクには、話している人の声だけでなく、部屋で鳴っている音がすべて入ります。壁や机に跳ね返った自分の声、空調やパソコンのファンの音、廊下の話し声などです。聴きやすい音とは、こうした部屋の音に比べて、声がはっきりと大きく録れている音のことです。
声と部屋の音の比率を変えるいちばん簡単な方法は、マイクを口に近づけることです。マイクメーカーの Shure は、マイクを口から2〜12インチ(約5〜30センチ)の範囲に近づけると、雑音や反響に対して声が大きくなるため効果がある、と説明しています[1]。マイクを近づけても部屋の音の大きさはほとんど変わらず、声だけが大きく入るためです。
ただし、近づけすぎると息の音が入りやすくなります(後の「ボッ」という音の章で説明します)。まずは範囲の中ほどから試し、試し録りを聴いて決めるとよいでしょう。
もう1つの方法は、部屋の音そのものを減らすことです。響きにくい部屋を選ぶ、空調を弱める、ドアを閉める、といった対処がこれにあたります。6つの症状のうち、響き・雑音・声の大きさの差は、主にこの2つ(声を近づける・部屋の音を減らす)で対処できます。残りの3つは、マイクの向きや置き方、録音の設定で防ぎます。
6つの症状と、その場でできることの早見表
会議室での収録で起きやすい症状を一覧にします。収録の当日は、この表を手元に置いておくと便利です。
| 症状 | 主な原因 | その場でできること |
|---|---|---|
| 声がお風呂場のように響く(★) | 壁・窓・机に、声が跳ね返っている | 家具やカーテンの多い部屋に移る。マイクを口に近づける |
| 「サー」「ゴー」という音がずっと鳴っている | 空調、パソコン、プロジェクター | 空調を弱める。使わない機器の電源を切る |
| 人によって声の大きさが違う | 1台のマイクを、複数の人で使っている | マイクから全員が同じ距離になるように座る |
| 「ボッ」という音や、息の音が入る | 息がマイクに直接当たっている | マイクを口の正面から少しずらす |
| 机をたたく音や、紙の音が入る(★) | 机の振動や手元の物音が、マイクに伝わっている | マイクを机から離して置く。資料をめくらずに済むようにする |
| 声が割れて、ひずむ(★) | 録音の音量の設定が大きすぎる | 録音の音量を下げて、試し録りをし直す |
★の3つは、編集で直すのが難しい症状です。当日は、この3つを優先して防ぎます。ここからは症状ごとに、何が起きているのかと、その場での対処、次の収録までの準備を説明します。
声が響くときは:家具の多い部屋に移り、マイクを近づける
会議室には、壁、窓ガラス、ホワイトボード、机の天板など、硬い面がたくさんあります。声はこうした面に跳ね返り、少し遅れてマイクに入ります。これが重なると、お風呂場で話しているような響きになります。部屋の広さだけでなく、硬い面の多さも響きを左右するため、小さな部屋でも、家具がなくガラス張りであれば響きやすくなります。
当日は、次の順に試します。
- 使える部屋の中で、家具やカーテンが多く、硬い面の少ない部屋に移る
- ブラインドやカーテンがあれば閉めて、窓ガラスに当たる声を減らす
- 話す人は壁から少し離れて座り、マイクを口に近づける
次の収録に向けては、部屋の候補を先に試しておくと安心です。同じ社内でも、床にカーペットが敷かれ、ソファや棚のある応接室のほうが、ガラス張りの会議室より響きにくいことがあります。候補の部屋で数十秒ずつ試し録りをして、聴き比べてみてください。
「サー」「ゴー」という音が入るときは:収録の前に、部屋の音だけを録って聴く
空調や換気扇、パソコンのファン、プロジェクター、冷蔵庫の音は、その部屋にいると耳が慣れてしまい、気づきにくい音です。ところが、録音を聴き返すと、声の後ろでずっと鳴っているのが分かります。Shure も、空調の吹き出し口、家電、パソコンのファンなどの音が録音では目立つことを、マイク選びの注意点として挙げています[1]。
こうした音を見落とさないために、本番の前に、全員が黙った状態で部屋の音だけを30秒ほど録り、ヘッドホンで聴いてみます。そのうえで、次のように音を減らします。
- 空調を弱めるか、収録の間だけ止める(止めるときは、休憩のたびに換気と温度の調整をする)
- 使わないパソコンやプロジェクターの電源を切る
- スマートフォンの通知音とバイブレーションを切る
- ドアを閉め、廊下側に「収録中」の掲示を出す
次の収録に向けては、館内放送やチャイムが鳴る時間、清掃や工事の予定を、総務の担当者に確かめておきます。昼休みの前後など、廊下が騒がしくなる時間帯を避けるだけで、録り直しが減ることもあります。
声の大きさが人によって違うときは:次からは1人1本のマイクにする
会議用のスピーカーフォンやボイスレコーダーを机の中央に1台だけ置いて録ると、マイクに近い人の声は大きく、遠い人の声は小さく、響きの多い音になります。
マイクが1台しかない当日は、全員がマイクから同じくらいの距離になるように、座る位置を調整します。話すときに体をのけぞらせたり、横を向いたりしないことも大切です。
次の収録からは、話す人の数だけマイクを用意します。複数のマイクで録るときは、マイクをまとめてつなぐ機器(オーディオインターフェースなど)や、複数のマイクを挿せる録音機を使い、1人ずつ別の音声として録ります。こうしておけば、あとの編集で人ごとに音量を整えられます。
マイクが近くに並ぶと、隣の人の声も少しは入ります。それぞれのマイクを自分の口に向け、マイクどうしを少し離して置くと、自分の声が大きく、隣の声が小さく入ります。聞き手と出演者がマイク越しに向かい合う位置に座ると、自然と正面を向いて話せます。
「ボッ」という音が入るときは:マイクを口の正面から少しずらす
「パ」「バ」のような音を発音すると、口から勢いのある息が出ます。この息がマイクに直接当たると、「ボッ」という低い音が録音に入ります。マイクを口に近づけるほど起きやすくなるため、近づけることとあわせて対処しておきたい症状です。
その場でできることは、マイクを口の正面から少し横か上にずらし、息が直接当たらない角度にすることです。マイクの前に、ポップガード(息をさえぎる網やスポンジ)を付ける方法もあります。

机の音や紙の音が入るときは:マイクを机から離して置く
マイクのスタンドを机の上に置くと、机をたたく、ペンを置く、コップを置くといった振動が、スタンドを通じてマイクに伝わります。Shure は、ショックマウント(マイクを宙に浮かせるように支える部品)が、こうした衝撃の音を減らすと説明しています[1]。
机の音や紙の音を減らすには、次の4つを確かめます。
- マイクを机に触れない形で置く(ショックマウント付きのアーム式スタンドや床置きのスタンドを使う。無ければ、スタンドの下にタオルなどの柔らかい物を敷く)
- 紙の資料はめくる音が入るため、枚数を絞るか、タブレットなどの画面で見る
- 飲み物は、話していないときに飲む
- ペン、腕時計、アクセサリーなど、机に当たって音が出る物を外す
声が割れるときは:録音の音量を下げて、試し録りをし直す
録音機やパソコンの録音ソフトには、マイクから入る音の大きさ(入力レベル)を決める設定と、その大きさを示すメーターがあります。この設定を大きくしすぎると、笑い声や強調した言葉など、声が大きくなった瞬間に、録音できる上限を超えてしまいます。上限を超えた部分は削られた状態で録音され、「バリッ」と割れた音になります。
その場でできることは、本番の前に、出演者にいちばん大きな声(笑い声など)を出してもらい、メーターが上限に届かない音量に設定することです。割れた声は、あとから元に戻せません。一方、少し小さめに録った声は、編集で大きくできます。ただし、小さすぎると、大きくしたときに雑音も一緒に大きくなるため、上限に少し余裕を残す程度にします。
本番中も、聞き手とは別の1人がヘッドホンで音を聴いておくと安心です。物音や音割れに気づいたら、その場で止めて言い直してもらえます。
オンラインで参加する人がいる場合は:全員がヘッドホンを使う
出演者の一部がオンラインで参加する場合は、ここまでの6つの症状とは別の失敗が起きます。相手の声をスピーカーで流すと、その声を会議室のマイクがもう一度拾い、こだまのように響きます。また、通信が不安定になると、声が途切れたり、音質が落ちたりします。
対処の基本は、全員がヘッドホンかイヤホンで相手の声を聴くことです。オンラインで参加する人も、パソコンに内蔵されたマイクではなく外付けのマイクを使い、静かな個室から参加してもらいます。オンライン会議とは別に、参加者それぞれが自分の声を手元で録音しておく方法(収録用のオンラインツールの機能や、手元の録音機を使う)を取れば、通信が途切れても、その人の声は手元の録音から補えます。
オトポートでは
オトポートでは、会議室でもオンラインでも、静かな環境であれば収録しています。初回の収録の前にはリハーサルを行い、録音した音源は、不要な間や「あー」「えー」といった言い淀みを編集でカットしてから配信しています。社内に収録に向く部屋が無い場合は、収録スタジオを借りて収録することもあります(スタジオの費用は実費)。
編集で直せること、直せないこと
収録のあとには編集の工程があります。ただし、編集で何でも直せるわけではありません。直しやすい失敗と、直しにくい失敗は次のとおりです。
| 失敗 | 編集での直しやすさ | 理由 |
|---|---|---|
| 言い淀み、長い間 | 直しやすい | 声のない部分や不要な部分を、切り取れるため |
| 人や回によって音量が違う | 直しやすい(人ごとの差は、1人1本のマイクで録った場合) | 音量は、あとから整えられるため。1台のマイクで録った音は、人ごとに分けにくい |
| 「ボッ」という音 | ある程度は減らせる | 低い音を弱める処理で目立たなくできるが、強いものは残るため |
| 空調などの、一定の雑音 | ある程度は減らせる | 強く減らすと、声まで不自然になることがあるため |
| 強い響き | 直しにくい | 響きは、声と同時に録音されているため |
| 声の割れ | 直しにくい | 削れた部分の音は、録音に残っていないため |
| 声に重なった物音や話し声 | 直しにくい | 声と同じ時間に鳴っているため |
番組全体の音量は、配信先が目安を示しています。たとえば Apple Podcasts は、番組ごとの聞こえる大きさをそろえるための基準を設けています[2]。この調整は編集の工程で行うため、収録の時点で無理に大きく録る必要はありません。
表のうち「直しにくい」3つが、冒頭で挙げた、当日に優先して防ぎたい失敗です。
収録の前に、部屋で確かめておくこと
最後に、初めての部屋で収録するときに、本番の前日までに確かめておきたいことをまとめます。
- 使える部屋の中で、家具やカーテンが多く、硬い面の少ない部屋はどこか
- 空調を弱められるか。館内放送やチャイムが鳴る時間はいつか
- 収録の時間帯に、隣の部屋や廊下で大きな音が出る予定(工事・清掃・来客)がないか
- 話す人の数だけマイクを用意でき、机に触れない形で置けるか
- 全員の声と、30秒ほどの部屋の音だけを試し録りして、ヘッドホンで聴いたか
部屋とマイクの準備ができたら、あとは話す内容の準備です。収録日までに社内で決めておくことや、台本の考え方は、記事「企業ポッドキャストの運用工数は?月1回の収録と社内の役割分担」で紹介しています。自社で収録・編集まで行う場合にそろえるものは、記事「企業ポッドキャストの始め方は?企画から初回配信までの7ステップ」のステップ3にまとめています。
出典
- Shure「Choosing a Microphone for Podcasting」
- Apple Podcasts for Creators「Audio requirements」
